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「……いい、もう。自分で取る」
「え、でも……。慣れてないでしょ。ゴシゴシやると、爪痛めるよ」
「じゃあ、ネットで調べる。だから……何だっけ。除光液、だっけ。それ貸しといて」
「………それは……別にいいんだけど」
私のワガママに付き合わせたうえに、そこまで忍くんにさせてしまうのが申し訳なくて、何となく語尾を濁して佇んでいると……。
忍くんはテーブルに置いていた鍵をひっ掴み、ザッと勢いよく立ち上がった。
そうしてスタスタと、目を伏せたままこちらへ向かって歩いてくる。
私の横を通り過ぎざま、彼は聞こえるか聞こえないかの声でボソッと呟いた。
「今、手とか触られんの、マジで無理だから」
目を見開いて彼を振り返ると、忍くんは既にリビングを出て玄関へと向かっていた。
電気消してきて、という声だけが返ってくる。
私は慌ててテーブルの上のマニキュアなどを片付け、代わりに除光液をそこに置いて立ち上がった。
「………………」
速い鼓動を隠すように、胸にバッグを抱え込む。
リビングの電気を消し、私は小走りで忍くんの後を追いかけた。
靴を履いている彼の背中が視界に入り、軽く唇を噛む。
確かに……そうだよね。
今は私も……平常心では忍くんの手に、触れそうにないよ。
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