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「………見えなくなっちゃった」
「え?」
「マニキュア。せっかく塗ったのに」
次は私が溜め息をつく番だった。
丁寧に丁寧に塗って、仕上がりを見るの楽しみにしてたのに。
手の全体を見る前に停電になるなんて、運が悪すぎる。
「スマホで手元照らせば?」
「え~。何かそれ違う」
「つーか…。電気ずっと点かなかったら、どーなんのこれ」
「それは……。リムーバー置いてくから自分で取ってもらうしかないよね」
「………マジか」
嘘だろ、とでも言いたげな声に、私は口元を押さえて笑ってしまった。
外灯も月明かりもないからほとんど何も見えなかったけど、忍くんの声と気配が近いことに安心して、私はようやく忍くんの腕から手を離した。
「………………」
ザーザーと激しい雨の音が、余計に室内の静寂を感じさせる。
もう平気だと思ったのに、忍くんの温もりから離れたことで、予想以上に心細くなってしまった。
「雨……もう少し弱くなるまで、ここにいてもいい?」
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