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透さんはもういない……忘れろって言ったのは忍くんなのに。
それでも私はまだ、『触れちゃいけない人』なの……?
私は、さっき肩を抱いてくれた忍くんの手の温もり、まだ覚えてるのに……。
「真白さ……」
「いるよ、ちゃんと」
雨の音を破るように、私は凛と答えた。
「遠くないよ。すぐ近くにいるよ」
忍くんが、ハッと息を飲む気配がする。
再びサッと白い光が射し込んで、二人の姿がポッカリと浮かび上がった。
そしてまた、すぐに消える。
少し間が空いてから、ゴロゴロゴロ…と、遠ざかっていく雷の音が響いてきた。
「………真白さん」
目の前で、シュッと衣擦れの音がした。
私は膝を抱えたまま、じっと忍くんの次の言葉を待つ。
姿は見えなくても、忍くんが何か逡巡しているのだけは伝わってきた。
長い沈黙と雨の音が、徐々に私の緊張を煽っていく。
「────触っていい? 真白さん」
しばらくして、意を決したような忍くんの声が、耳のすぐ側で聞こえた。
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