cinque-2

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ほとんど会話も交わしたこともなかった高校の時に、まさかそんな風に思ってくれていたなんて思ってもみなくて、私は心底びっくりしてしまった。 だってマトモに目も合わなくて……嫌われてるとさえ思うこともあったのに。 そういうのちゃんと……見てくれてたんだ。 「────ごめん、どっちにしろ気持ち悪いよな、俺」 「え」 「忘れて。今の無し」 私がずっと無言でいたのを拒否だと思ったのか、忍くんは慌てたようにそう言った。 直後にハアーッと深い溜め息が聞こえてくる。 ようやく気持ちが落ち着いてきた私は、胸を押さえながらゆっくりと体勢を元に戻した。 「いいよ、別に、全然」 「……………」 「こんなのでよかったら、いくらでも」 って、我ながら変な言い方だけど。 黙って触るんじゃなくて、ちゃんと一言断りをいれるところが誠実っていうか、律儀っていうか……。 相手が他の人ならどう思ったかわからないけど、ちっとも気持ち悪いなんて思わないし。  
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