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勝手にどんどん話を進めていくハラちゃんの口に、私は勢いよく両手を伸ばしてその饒舌をストップさせた。 ハラちゃんは目を丸くして私を見返す。 「ま、まだホントに……恋愛感情とかまでは行ってないから」 「……………」 「男の人として意識し始めたってだけで……まだ、そんな自分から意思表示するまでの気持ちはないから」 ゆっくりとハラちゃんの口から手を下ろし、私は小さく目を伏せた。 「こんな些細なことですら久しぶりだし、慣れてないから……。だから、ゆっくり進んでいきたいの」 「……………」 「もっとちゃんと整理したいこともあるし。……でないと、忍くんにも透さんにも失礼だから」 訥々とだけれど、私は今の自分の気持ちを正直に口にした。 するとハラちゃんは溜め息をつき、大きく肩をすくめた。 「………ま、それもそうね」 短くそう言うと、ハラちゃんはコーヒーのお代わりを淹れる為に席を立った。 スタスタと歩いていくハラちゃんの後ろ姿を、私はぼんやりと見送る。 なんだか物凄く難しい宿題を沢山出されてしまったような──。 どこかそんな憂鬱にも似た重い気分に、その時私は襲われていた。  
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