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「あ、う、うん。……気を付けて帰ってね」
「ん。おやすみ」
小さく笑って会釈をし、忍くんは元来た道を戻り始めた。
その瞬間、傘を握る彼の指先が門灯を反射して鈍く光った気がした。
それがマニキュアを塗った爪だと気付き、私はハッとする。
(結局……ちゃんと見れなかったな……)
あの日のように遠ざかっていく彼の背中を見つめながら、やっぱり私の心はほっこりと温かかった。
今から帰って忍くんは、一人でマニキュアを落とすのか……。
その姿を想像して、私は門の前で一人クスクスと笑う。
「………………」
それと同時に、右膝の痛みが全く無くなっていることに、私は気が付いた。
ふっと笑顔を収める。
私が笑う度……右膝の痛みを忘れる度。
忍くんと一緒に過ごす時間を楽しいと思う度……。
何だか透さんのことまで忘れていってしまうような気がして──。
私はこの時透さんに対して、ひどくいたたまれない気持ちになった。
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