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切れてしまった携帯を、私は呆然と見つめる。
今から忍くんが来るのかと思うと、秋だというのに額にうっすらと冷や汗が浮かんだ。
『………………』
無表情で、口数の少ない、私と同い年の透さんの弟。
透さんやお母さんが一緒にいて初めて会話が成り立つ程度なのに、いきなり二人っきりなんてそんなの、ハードルが高すぎる。
決して嫌いではないけど……何考えてるのかわかんなくて、ハッキリ言って苦手な人だ。
透さんは大丈夫だって言ってたけど、忍くんの立場になったら、なんで兄弟の恋人を俺が迎えに行かなきゃいけないんだって思うよね。
………ああ、こんなことなら、始めから透さんに会いたいなんて変な欲を出さずに、タクシーでも拾って一人で帰ればよかった。
ううん、今からでも遅くない。
タクシー代は痛いけど、こうなったらもう……。
『────真白さん』
銀行の入口の脇で一人悶絶していると、不意に背後から声をかけられた。
条件反射的に、私の体がガチッと固まる。
この……抑揚のない、感情のこもらない声は──…。
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