400人が本棚に入れています
本棚に追加
『………………』
声のした方を、恐る恐る肩越しに振り返ると。
淡い藍色の詰め襟を着た忍くんがそこに立っていた。
青みがかった静かな瞳を見て、無意識に息を飲む。
うわ……どうしよう……。
もう来ちゃったよ……。
この顔、怒ってるの? 怒ってないの?
どっちなんだろう……さっぱりわからない。
『し、忍くん……。こんにちは』
観念した私は、何とか笑顔を作りながら体ごと忍くんに向き直った。
忍くんはペコリと小さく頭を下げる。
『………どーも』
『……………』
うう。仕草も言葉もいつも通りすぎて、怒ってるかどうかの判断がつかない。
でも多分この感じは……怒ってはいないっぽい……のかな。
『あ、あの……、ごめんね?』
『え?』
『私あの、一人で帰るから。……だから忍くん、帰ってくれていいよ』
『………いいよ、別に。用事もないし』
『で、でも……なんか悪いし』
『別に悪くないよ。それに……俺が兄貴に怒られる』
ピシャリとそう言われて、私は畏縮して黙り込んだ。
………これ以上遠慮すると、かえって怒らせてしまうかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!