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忍くんの言いたいことが何だかよくわからなくて、私は返事を返すことが出来ないでいた。
そこからまたしばらく、沈黙が続く。
傘の中から、私はぼんやりと空を見上げた。
さっきよりは少し……雨足が弱くなったかな。
『………………』
その時ちょうど私の目線に傘の柄を握る忍くんの手があった。
吸い寄せられるように、その手に視線が釘付けになる。
忍くんの手、初めてこんなに近くで見たけど……凄くキレイな手だな。
手首が細いから大きく見えるけど、指が長くてしなやかだから武骨って印象はない。
マニキュアが似合いそう……なんて。
こんなこと、口が裂けても言えないけど。
『…………あ』
最後の辻を曲がったところで、忍くんがポツリと呟いた。
『え?』
『雨……止んだっぽい』
左手を傘から出して、忍くんは空を仰ぐ。
つられて私もハッと空を見上げた。
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