289人が本棚に入れています
本棚に追加
本田さんは腕を組み、少し威圧的にも聞こえる声で言った。
「じゃあ何。俺に反対方向の萌送れって言うの」
「……………」
ぐっと忍くんは言葉に詰まる。
そうして困ったように、私にチラッと視線を投げてきた。
そりゃ私だって忍くんに送ってもらいたいけど……でも、とてものことそんな本音を言える雰囲気ではなかった。
忍くんは小さく目を伏せ、両の拳を静かに握りしめた。
「でも……真白さんも、初対面の人だと気使うと思うし……」
────多分、言葉遣いからして。
本田さんは忍くんの先輩で、強く自己主張できない相手なのだろう。
職場の上下関係なんてただでさえ理不尽なことは多いし、ましてや人と関わるのが苦手な忍くんが、先輩に意見することなんて滅多にないことなんだろうな…って思ったら。
忍くんに対して、何だかとても申し訳ない気持ちになってきてしまった。
ピンと張り詰めた空気にいたたまれなくなって俯いていると。
更に追い打ちをかけるように、古川さんが口を開いた。
最初のコメントを投稿しよう!