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「じゃ、また木曜日に」
目の前の忍くんの影が動き、私はハッと顔を上げる。
忍くんが手を上げて、踵を返そうとしていた。
「あ……うん。おやすみ」
「────おやすみ」
手を振ると、忍くんは少し笑ってから私に背を向けて歩き始めた。
二、三歩進んだところで、何かを思い出したようにふと足を止める。
そうして躊躇うように、こちらを振り返った。
「真白さん。……あのさ」
そこまで言って忍くんは言い淀んでしまった。
私はキョトンと首を傾げる。
「何?」
聞き返すと、忍くんはゆっくりと口を開き……。
でも、何も言葉は出て来なかった。
「………やっぱりいい。……また、今度言う」
「……………」
「おやすみ」
そう言って笑った忍くんは、何故かひどく儚く見えた。
胸が詰まり、私は何も言えなくなる。
何を……言おうとしたの?
聞きたかったけど、忍くんはもう既に歩き始めてしまっていて……。
結局私は何も聞けずに、遠ざかっていく彼の後ろ姿をただ見つめることしか出来ないでいた。
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