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涙で濡れた忍くんの睫毛の先に、街灯の灯りが点る。
無防備に流される涙は、とても綺麗で、痛々しくて。
私は、激しく胸を締め付けられた。
(…………忍くん………)
私自身も、溢れてきた涙をそっと指で拭う。
─────私は、何にもわかっていなかった。
忍くんの心の傷も、葛藤も。
何一つ理解せずに、自分の気持ちばかりを押し付けてしまっていた。
彼がどんな想いで私と接していたのか。
どんな想いで謝っていたのか。
………ホントに私は、何にもわかってなかったんだ。
『兄貴を忘れること、できる?』
この前の別れ際。
忍くんは、私にそう聞いてきた。
私はてっきり、私との関係を深める為に、私の中から透さんの影を追い出してくれるのかって……そういう意味で聞かれてるんだと思ってた。
でも、今思えばあれは……。
忍くんが、自分自身に問いかけたことだったのかもしれない。
同じように、透さんが亡くなったことで自分を呵責している私に……確かめたかったのかもしれない。
だから彼にもきっと、時間が必要だったんだ。
────透さんのことを思い出に変える為に、きっと。
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