298人が本棚に入れています
本棚に追加
彼に向かって、ゆっくりと手を伸ばす。
両手でやんわりと忍くんの頬を包み込むと、彼の体がビクリと大きく震えた。
そのままの姿勢で私は膝立ちになり、おもむろに彼との距離を詰める。
そうして、忍くんが顔を上げると同時に。
…………そっと彼の目元に唇を押し当てた。
「……………」
涙を拭う意味も込めての口付けだったけど。
忍くんはその瞬間、微動だにしなかった。
唇を離して、彼の顔を間近で覗きこむと、唖然としたような忍くんの顔が視界に映った。
あまりにも私の行為が予想外で驚いたのか、目を真ん丸にして私の顔を食い入るように見つめている。
さっきまで聞こえていた嗚咽の声も、息を止めているのか今は全く聞こえなくなっていた。
「………ごめんね、忍くん」
胸が痛くて、胸元で強く拳を握る。
忍くんは微かに、眉を寄せたように見えた。
「………私、何にもわかってなくて……ごめんね」
「……………」
「忍くんがどれだけ苦しんで、どんな想いでいたかなんて知りもせずに……私、自分の気持ちばっかり押し付けてた……」
最初のコメントを投稿しよう!