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忍くんの濡れた瞳が大きく見開かれ、ゆらゆらと揺らめく。
涙は止まったみたいだったけど、そこにはまだ動揺や戸惑いみたいなものが見え隠れしていた。
私はもう一度手を伸ばし、今度は忍くんの両手を強く握りしめた。
真っ直ぐに、彼の瞳を見つめる。
「忍くんは……最低なんかじゃないよ」
そう呟いた瞬間、私の両目からも涙がポロポロと零れ落ちた。
忍くんがハッと息を飲む。
「忍くんが抱えてきた苦しみの半分も、私はわからないけど……。でも、それだけはわかる」
「……………」
「だって忍くん、こんなに傷付いて、苦しんでるじゃない……」
彼の指を握りしめる手に、私はぎゅうっと力を込めた。
忍くんの心の痛みを思うと、息が詰まりそうなくらいに苦しくなる。
────その痛みを、ほんの少しでも和らげてあげたいと思った。
「私も始めは、凄く葛藤があった。……透さんのいないこの場所で、何かを楽しいと思ったり、笑ったりして過ごすことは、罪な気がして……」
「……………」
「でもそれは……しょうがないことなんだよ」
繋がれた二人の手の甲に、私の涙が落ちて弾けた。
「だって私達は……生きてるんだもん」
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