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「……………」
誰を、なんて忍くんは言わなかったけど、それが私のことなんだってことは明白で。
私は胸が詰まり、じわっと目頭が熱くなるのを感じていた。
掴まれた手首から流れ込んでくる忍くんの感情が、あまりにも切なかったから。
………苦しげだったから。
その時、ようやく忍くんの手の力が少しだけ緩み、初めて忍くんが自分の涙をグイッと袖で拭った。
力が緩んだからと言って、私は指一本動かすことは出来なかったけど……。
「兄貴が、あんなことになって……」
涙を拭ったあと、忍くんはゆっくりと私から手を離した。
覆い被さっていた半身を起こして、力なくベッドに腰を下ろす。
「兄貴が急にいなくなって……。当たり前だけど、彼女はもう、二度とうちには来なくなった」
「……………」
「俺だって、ずっと引きずってた訳じゃない。……この7年の間に、新しい目標もできたし、他に好きな人だってできた。……俺なりに過去は吹っ切って、前に進んでるつもりだった……」
話しながら、忍くんは何度も何度も溢れてくる涙を拭う。
私は乱れたスカートの裾を押さえながら、ゆっくりと身を起こした。
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