dieci

19/25
前へ
/25ページ
次へ
「初めて見た」 「え?」 「真白ちゃんの、作り笑いじゃない笑顔」 言われて思わず、私はバッと両手で頬を押さえる。 バレバレだったんだ、と思ったら、カアッと一気に顔に熱が上ってしまった。 「いいじゃん、可愛い。ずっとそうやって笑ってなよ。忍もその笑顔見ると、やる気出るよ」 「…………」 「そういや今日のコンペも、頑張ってたなーアイツ」 私はハッと息を飲む。 思わず無意識に、本田さんのコートの裾を掴んでしまった。 「ど、どうだったんですか、コンペは!?」 「うん。評価はよかったっぽいよ? 皆アイツの急成長にびっくりしてた」 「……………」 身体中の力が抜けて、私はほうっと息をつく。 本田さんがクスクス笑い出したので、私は我に返って慌てて彼から手を離した。 「忍のドルチェ、選ばれるといーね」 そう言うと本田さんはポン、と私の頭に手を置いてから、そのままバイバイ、と手を振った。 私はハッとして、急いで頭を下げる。 「お、送っていただいて、ありがとうございました」 「いーえ。じゃあ、おやすみー」 最後まで飄々とした態度を崩さず、本田さんは踵を返して歩き始めた。 その後ろ姿を見つめながら、私は貰った缶コーヒーを両手で包み込む。 やっぱり苦手なタイプの人だけど。 会った時と今では、本田さんの印象は全然違うものに変わっていた。  
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

302人が本棚に入れています
本棚に追加