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嫌な予感が的中して、私は露骨に顔をしかめる。
けれども本田さんは一向に構う様子もなく、ニコニコと笑顔でこちらに歩いてきた。
「やっぱり真白ちゃんだ。いやー、偶然だねぇ」
「…………こんばんは」
無視をする訳にもいかず、私はとりあえず頭を下げる。
もうあと少しでタクシーの順番が来る、というところで本田さんに捕まってしまい、仕方なく私は列から離れることにした。
「あれっ? 顔赤い?」
「……………」
「もしかして酔ってる? 可愛いー」
相変わらずの飄々とした様子がどうにも理解できなくて、私は無言で本田さんの顔を軽く睨むように見上げる。
………だって、この人が訳のわからない行動を取ったせいで、私と忍くんは散々振り回されて気持ちを掻き回されたんだから。
私の無言の非難が伝わったのか、本田さんは身を起こしてニッと笑った。
「送ったげるよ、真白ちゃん」
「え。………でも」
「どうせ同じ方向でしょ。タクシー代も浮くよ?」
「……………」
正直タクシー代なんて、どうでもよかったけど。
一度この人と二人でじっくり話して、一体何を考えているのか、その真意を知りたいと。
酔いのせいもあってか、私はそんな風に思ってしまった。
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