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「支えなくていいよ。足は何ともないんだから」
「………でも」
「マジで、平気だから」
少し持て余したように言ったあと、忍くんは体ごとこちらに向き直った。
「足……痛いんじゃないの? 歩いて帰れる?」
「……………」
私は奥歯を噛み締め、ブンブンと首を横に振った。
「………もう大丈夫。全然、痛くない」
「…………」
「私は、一人で平気だから」
キッパリと力強く言い切ると。
何故か彼の瞳に、寂しそうな色がよぎった。
けれどすぐに、忍くんはふっと柔らかい笑みを浮かべた。
「………わかった。……じゃあ、気を付けて」
急かされるように古川さんに袖を引かれた忍くんは、それだけを言うとくるりと私に背を向けて歩き出した。
遠ざかっていく二人の後ろ姿を見つめながら。
私はじっとその場に佇んで、激しい雨に打たれていた。
古川さんの言葉が鮮明に甦り、私はたまらず胸の前で手を握りしめる。
神様。
神様、お願いします。
私はどうなっても構わないから。
忍くんから、右手を奪わないでください。
──── 彼の夢を、奪わないでください……。
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