tredici

17/27
前へ
/27ページ
次へ
「支えなくていいよ。足は何ともないんだから」 「………でも」 「マジで、平気だから」 少し持て余したように言ったあと、忍くんは体ごとこちらに向き直った。 「足……痛いんじゃないの? 歩いて帰れる?」 「……………」 私は奥歯を噛み締め、ブンブンと首を横に振った。 「………もう大丈夫。全然、痛くない」 「…………」 「私は、一人で平気だから」 キッパリと力強く言い切ると。 何故か彼の瞳に、寂しそうな色がよぎった。 けれどすぐに、忍くんはふっと柔らかい笑みを浮かべた。 「………わかった。……じゃあ、気を付けて」 急かされるように古川さんに袖を引かれた忍くんは、それだけを言うとくるりと私に背を向けて歩き出した。 遠ざかっていく二人の後ろ姿を見つめながら。 私はじっとその場に佇んで、激しい雨に打たれていた。 古川さんの言葉が鮮明に甦り、私はたまらず胸の前で手を握りしめる。 神様。 神様、お願いします。 私はどうなっても構わないから。 忍くんから、右手を奪わないでください。 ──── 彼の夢を、奪わないでください……。  
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

268人が本棚に入れています
本棚に追加