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「あ、ああ……」
人の賑わう繁華街。
初夏とはいえ、日の沈めば少し肌寒さがあった。
実際、道を行き交う人達の服装は昼間よりも暖かそうなものだ。
客引きの威勢のいい声や、友達とはしゃぐ制服を着崩した、いかにもギャルという感じの女子高生の笑い声がよく響いている。
また、誰に声をかけようかと物色する、チャラついた男たちもちらほらと見え、酔いの回った中年の男性たちが、千鳥足で歌を歌う。
そんな、賑やかな繁華街の一角。
人目のつかない暗い路地で。
少年は小さく喉を震わせていた。
黒髪の可愛らしい少年は、その大きな目をさらに見開き、涙を浮かべ、道に尻餅をついている。
「なん……だ?」
目の前の『それ』が何なのか、理解できていないのだろう。
まあ、無理のないことだった。
大の大人だとしても叫びながら逃げ回っているかもしれないような、恐ろしいものが、視界いっぱいに広がっていた。
子供――ましては五つ六つの少年が、こんな風に黙って見ているというだけでも立派なものだ。
それは、真っ赤に染まった少年だった。
暗いせいではっきりと見とる事はできなかったが、それは確かだ。
そして、その少年は手に何かを握っている。
少年と同じく深紅に染まったそれは、大きな鎌のようだった。
そして、そんな少年の足元。
粘度のある水溜まりの中に浮かぶ、塊。
それは――
「ひ……と…………?」
そう、人、だった。
「う、ああ……ぅ、えぇ゛」
黒毛の少年は思い出したように込み上げてくるものを押し止めきれず、吐き出してしまう。
「あ……。」
そこでようやく、少年は彼の存在に気づいたようだ。
「おま、え……は?」
すべてを吐き出しきった少年が、絞るように問い掛ける。
「僕は――」
それに応えるように、赤い、紅い、少年が、悲しそうに、苦しそうに……言った――
「死神だよ。」
――と。
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