第1章

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ジャッジ。審判員と名乗る男が俺の眉間に拳銃を押し当てた。至近距離、避けることは不可能。背中には黒髪の女の子を庇ってる。 どうしてこうなった? 俺、石嶋斑鳩(いしじま、いかるが)の人生ってのは女の子を守るためにあったのか? いいや、俺の人生っていったいなんだ? 高校進学、失敗して、中卒で就職シテ、ボロアパートで飼い猫のみーさんと酒のつまみを取り合うだけのつまらない人生だったんだぞ。なのに、どうしてこうなった? 走馬灯のように駆け抜けていく中で、男は言う。 「選んでください。その子を渡すか、渡さないか。殺されるか、殺されないか。簡単な質問です」 どうしてこうなった? 俺は眉間に拳銃を押し当てられながら、数日前のことを思い出した。 六月、梅雨だった。仕事の帰り道、自転車に乗っていたら雨に降られて、ずぶ濡れのまま帰宅、玄関先で服を脱いでパンツ一丁になと、急いで浴室に走り熱いシャワーを浴びた。愛用のスエットに着替えると、黒猫のみーさんが、餌くれとすり寄ってくる。小生意気な奴めとみーさんの頭を撫でつつ、餌をやる。俺も仕事終わりに冷蔵庫からビールを取り出すと プルタブを押し上げて一杯、あおった。ほろ酔い気分になった頃、インターホンが鳴り響き、ドサッと何か大きな荷物を置く音が聞こえた。 「イタズラか?」 飼い猫のみーさんに聞いてみたが、返答はない、そのかわりにさっさと行けと前足で背中を押された。 「めんどくせーな」 と言いつつ、どっこいしょと腰をあげる。外は相変わらず雨が降り続いているようだった。玄関先の扉を開けるとそこには大きなダンボールと、その中に猫のようにくるまる小さな女の子。隅っこ着替えやらなんやらが置かれている。 「みーさん、俺、夢でも見てるのかな?」 夢じゃねーよ。現実だと言いたいのか、みーさんは一回だけ、ミーと鳴いたが、ふざけてる場合じゃない。ダンボールの中の少女に容赦なく、雨は降り続いているからだ。 (って、どうするんだよ。こんなの、警察? いや、警察はダメだろ。女の子がダンボールに入ってましたなんて言っても真っ先に誘拐を疑われるに決まってる) どころか、 (中卒男、少女誘拐で新聞に載ったりしねーだろうな!!) マズい、マズいと少女をダンボールごと持ち上げる。ズシッリと重いが持てないほどじゃない。急いで回収と黒猫のみーさんもトテトテと俺のあとについてくる。
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