その1

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「まあ、まあ。諏訪さん落ち着いて、人の噂も七十五日っていうでしょう。その内、消えるわよ」 「それを、再燃焼させたのはどこの誰です」 「・・・さぁ、誰でしょうね」  本当に、矢子はいい加減な先生だと思う。一応、タバコは生徒の前では消すが校内で堂々と吸っていることからも分かるように、生徒の鑑でなくてはいけないはずなのに。 「落ち着きなさいよ。コーヒー入れるからさ。好きなんでしょう」  よく見ると、保健室には他にコーヒーサイフォンも置かれていた。普通、学校は購入したモノ以外、私物は極力置かないようにしている。何でもかんでも私物を持ってくることを許してしまえば、学校全体の風紀が乱れてしまうからだ。にも、関わらず保健室には矢子の私物が結構、置かれていた。  コーヒーが出来ると棚から隠しておいたカップを取りだして自分の分と優香の分と二人分を用意して渡す。優香は不機嫌そうに砂糖とミルクを注いで口にする。行きつけの喫茶店、時忘れのカーフェが注いでくれるのに比べると、少し渋みがある。豆の違いなのか、焙煎が十分ではなかったのか。 「・・・とにかく、これ以上、おかしな噂を流すのはやめてください。私が困りますから」 「分かったわよ。これから、もっと面白くなりそうだったのにィ」  矢子は面白く無さそうに唇を尖らせる。この後に及んで、まだ彼女は何かおかしか噂を流すつもりでいるのか。ある意味、ここでクギを打っておいて正解だったと優香は胸を撫で下ろした。  矢子からコーヒーをご馳走になった優香はカップを先生に返しながら、 「それにしても、矢子先生は保健室に幾つ私物を持ち込んでいるのですか?見たことない古い本までありますけど」  保健室の棚には、いい加減な彼女に似つかわしくない堅そうな内容が書かれてそうな外国の言葉で書かれた専門書も置かれていた。使われている単語から察するにフランスで出版された本らしい。 「それね。私の参考書よ」 「参考書ですか?ちょっと、見てもいいですか」 「構わないわよ。その代わり汚さないでよ」
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