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「矢子先生はいないのか」
「そうみたいね」
優香はそう言って、しばらく、動きが止まった。
思考が停止したからだ。それというのも、何の前触れもなく背後から辻努に当たり前のように声をかけられたから。
ビックリして優香は振り向くと同時に保健室のドアに後退りする。
「ちょ!な、な!なんで、急に現れるのですか!」
「人を逢魔みたいにいうな。先生に呼び出しを受けたから、生徒指導室に向かう途中だったんだ。そしたら、優香が保健室の前で立っていたから」
優香が保健室の前で少し考えごとをしていたところに努が鉢合わせした。何を考えているのかと思い声をかけただけで、努は優香を驚かすつもりはなかった。
優香にしてみれば、あの衝撃的な出会いから約三ヶ月が経とうとしてたが、なかなか努には慣れずにいた。日常の会話程度ならば、問題なく交わせるようになったが不意をつかれた行動にはまだ対応しきれない。こうして、声をかけられただけで、動悸が激しくなってしまう。
「ところで、優香は何をしているんだ。矢子先生に用事か?」
「違うわよ。私も生徒指導室に呼ばれているの」
「優香もか」
優香も生徒指導室に呼ばれたことを知ると、努は不思議そうな顔をする。
「優香は何か、悪いことしたのか?」
「分かりません。努さんも呼ばれたということは・・・」
優香は六時限目に入る前、蓮美が言っていた言葉を思い出した。矢子によって流された噂。
----優香と努は××××や××××を××××しているらしい。
その話を思い出し、優香の顔がみるみる赤くなりだした。
(忘れていた!もし、矢子先生が流した噂を信じている人がいたとすれば、この状況は非常にまずいわ)
優香は努から視線を逸らして、すぐそこにある正面玄関を見た。放課後ということだけはあって、生徒達が部活に行ったり、帰宅しようと下駄箱のところに集まりつつあった。その中の何人かが、保健室前にいる優香と努に気付いて、ヒソヒソと話している。
「?」
努は校内に流れている噂を知らないのか、不思議そうな顔をしてた。
何故、他の生徒が自分と優香を見てヒソヒソ話しているのか。
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