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「優香、何かあったのか?」
事情を察することができない努は事情を知っていそうな優香に聞こうとしたが優香は、
「わ、私は知りません!努さん!輝葉先生が呼んでますから!生徒指導室に行きますよ!」
少し怒ったように言うと踵をかえして、やや急ぎ足で生徒指導室に向かって歩き出した。
「優香。そんなに、急ぐと・・・」
努が早歩きの優香に注意するも遅かった。今となってはお馴染みの災難に優香は遭ってしまう。
「きゃ!」
トランクケースを持ったまま早歩きしたら、どうなるか想像もつくだろう。ましてや、混乱してたのならば尚のこと、状況判断が鈍る。優香はトランクケースを持ったまま、その重さにバランスを崩し仰向け転倒しかけた。
「危ない!」
努は優香が転倒する前に、駆け寄りその手で彼女の背中を支える。さすがに、知り合ってから三ヶ月にもなると努の動きも慣れたものだ。まるで、ガラス細工でも扱うかのような動きで丁重に優香を受け止めた。
転倒せずには済んだが、優香は一部の生徒であるが見られたくない場面を見られてしまった。努に抱きかかえられながら優香は恐る恐る、目線を正面玄関の方に向けてみた。
「・・・・」
正面玄関には立ち止まり、優香と努の様子を伺っている生徒が数名いて、二人を見ていた。
「優香。大丈夫か!だから、危ないって言ったのに」
努は呆れてる。毎度、毎度のことながらトランクケースが重いにも関わらず走ろうとするから、こういうことになってしまう。優香にしてみれば、好きで走ったのではない。むしろ、この状況でも平然としている努の方が無神経というか神経が太すぎるのだ。
「だ、大丈夫です!」
優香は努の手を払い除けるようにして、起き上がった。このまま、仰向けになっていたら、またいつぞやのように額を突かれてしまう。そこまで、他の生徒に目撃されたら余計に噂が広がってしてしまう。
後ろなど、とても振り返る気になれない。赤面した顔で確認などしたら、それはそれで噂が余計に波立ってしまう。
「優香はどうしたというんだ?人前で転ぶのには慣れているはずのに」
優香が赤面し恥ずかしがっている原因を作り出している努はそんな自覚はなく先に行く優香のあとを追って駆け出した。
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