その1

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「・・・・」  輝葉は懐に手を突っ込むと、二人が見ている前で使い古されたライターを取り出しだ。この状況で輝葉はタバコでも吸うつもりなのか。だが、輝葉はタバコを持っていなかった。ならば、彼は何の為にライターをわざわざ、出したというのか。  輝葉はそのライターを口元にはもっていかず、その場で蓋を開けた。オイル式の古いライターは別名、ジッポライターとも呼ばれる代物である。蓋を開けると同時に、気化したライターのオイルに火が点く仕組みだ。映画やドラマでハードボイルドな男が使っている印象が強いライターであるが、それをわざわざ、点火して何をするつもりなのか。 「なっ!」  努は慌てて空間から辻家に伝わる対魔の武器、夕影を取りだし鞘から刀身を抜いた。努が前置きもなく、夕影を手にしたのには理由があった。それは、目の前で展開する異様な光景が原因だった。  点火したジッポライター。その火力が本来のライターを上回っていた。ライターの点火口から一直線に炎が伸びたかと思うと、炎は形状を変え細身の刀身を持つサーベルになる。  どういう原理でライターの炎がサーベルに変わるのか、その理由を探るよりも先に努は動いた。彼は真っ先に危険を察した。輝葉が自分達を襲いかかってくるものだと。  急いで、逢魔の狭間から逃げなくてはいけなかったが、生徒指導室に入室する時に存在していた空間の裂け目は消えていた。引き下がったところで、今すぐにここから脱出する術はない。  努は夕影を構えると対魔の武器である長刀、『夕影』を突き出した。それに、合わせるように輝葉も手にしたサーベルを突き出す。刀とサーベル、それぞれの剣先が擦れ違い、互いに開いての頬を掠め合った。スッと頬に薄く筋のような傷跡を残す結果に終わった。 「輝葉先生。何の真似ですか」  単なる冗談とは思えなかった。明らかに努と優香を輝葉は、逢魔に関わりをもつ者として、ここに誘い込んだ。ただの人が、逢魔について知っているとは思えない。  いったい、辻利輝葉は何を考えているというのか。
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