その2

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 努に有無を言わさず斬りかかる輝葉。彼は二人を逢魔の狭間に閉じ込めての襲撃だった。ジッポライターの炎が剣に形を変えるという異様さに、努は驚かされたが、それよりも、何故、自分達が輝葉に襲われなければいけないのか分からなかった。本人にその理由を問いただそうとするも、彼は答えるつもりはないのか真顔で攻撃の手を決して緩めようとはしない。  振り下ろされたサーベルを努は夕影で受け止める。炎をまとい燃えるサーベルは、見掛け倒しではなく本当に炎を帯びていた。先程、頬を掠めただけだというのに、ヒリヒリとした肌を焼け付くような痛みがある。そして、これは夢やまやかしではなく現実であるということを努は嫌顔でも理解した。 「さすがは、辻家当主、辻努だな。“火之迦具土神(ひのがくつちのかみ)”の炎を防ぐとは」 「何だって?」  努は表情をゆがめた。鍔迫り合いの中、輝葉が妙なことを口走ったから。聞いたことのない言葉の意味を聞こうとするも。 「・・・ピュー」  輝葉は口笛を吹く。努の実力に感心しての口笛なのか。いや、違う。今の口笛は。  努はゾクリとしたモノを感じて、本能的に引き下がる。鍔迫り合いの押し合いで輝葉に負けると思ったからではない。  輝葉が口笛を吹いた一瞬、見えた。彼の口元に風が集まるという不可思議な光景を。  輝葉の口笛に合わせるように、集まった風はジッポライターの炎同様、一瞬にして形を成した。燃えるサーベルとは別に。刀身に風を纏った日本刀に成り代わる。  ジッポライターといい、輝葉はあり得ない箇所から武器を取り出していた。努のように普段は見えないよう、逢魔の狭間に隠しているのとも違う。全く別の手段でだ。 「二刀流か」  努は輝葉がサーベル一本で戦いを挑んでくるばかりだと思っていた。炎のサーベルに風の刀。それぞれ、別々の特製を持った武器。夕影一本で対応するには少々、骨が折れそうに思えた。 「いや・・・」  輝葉は呟く。その声には明らかに、殺意がこもっていた。本気で努を殺しかねないほどの。  風の刀を交わした努を追い輝葉が前に出た。だが、それは理解しがたい行動を見せる結果となる。
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