その1

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 高校生になって二回目の夏休みは終わっても、諏訪優香の周りでは差して大きな変化はなかった。オカルトクラブは相変わらず、非公式な部活動で部員兼部長は優香一人だけのまま。唯一、変化があったことがあるとすれば、六月に起きた連続行方不明事件に端を発したことぐらいだろうか。一般的に幽霊と呼ばれる死者が実在する知り、逢魔と呼ばれる害を成す存在がいるということが明らかになった。その事件に巻き込まれたせいか、優香はそれ以降、死者や逢魔といった普通の人には見ることができない存在が時々、認知できるようになった。認知といっても、現世ではうっすらと見えるぐらいで、それぐらいでは世間一般に霊能力者として名乗り出ることはできない。  死者が見える特に見える時間帯は『逢魔が時』とも呼ばれていた。生者と死者の境界がもっとも曖昧になる時間帯に優香は特に良く見え、相手が生者であるのか、死者であるのか、だいたいは区別ができる。オカルトクラブを立ち上げようとしている者にとっては喜ばしい変化かもしれないが、正直なところ優香はあまり喜べる心境ではなかった。  その力がオカルトクラブ創設に生かせなかったというのもあったが、行方不明事件の結末が喜ばしくなかったことが大きいかもしれない。後輩になるはずだった水紀。彼女は妹のスズに憎まれていた。スズが逢魔に取り込まれるのは防ぐことができたが、病んでしまったスズの精神は簡単には戻らない。ましてや、水紀が亡くなった今となっては。水紀も自分がしてきたことを後悔して未だに処世に旅立つことができず、逢魔の狭間にある辻家の屋敷に留まっていた。辻家の当主である辻努も落ち着くまで居て良いと言ってはいたが、さすがに二ヶ月もなると優香も少し心配になってきた。  逢魔に取り込まれる要因として生前の名残があると、努は言っていた。もし、水紀が自分の後悔とスズに対する思いから魔化してしまったらと思うと。いくら、辻家にいるとはいえ。 「ねえ。優香、聞いてる?」
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