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「あ、ごめん。ちょっと、考え事してた」
「ボーッとしちゃって、もしかして夏休みボケ?」
優香の友達、書道部の聖蓮美(ひじり はすみ)はせせら笑って言う。ツートンカラーという、1990年代初頭では珍しい色に髪を染めていた。旋毛を中心とした頭部は黒髪であるが長髪の先に行くもほどに茶色にそまり毛先では完全な茶髪に染まっていた。そのあまりに、斬新な髪の色に風紀を乱すかどうか教職員の間で議論が繰り返されているが、結論はでず保留のままである。そもそも、当時はまだ髪の色に対する校則はなく、髪型だけに限られていたのもある。
「それでさぁ、今度、新しく来る新任の先生なんだけど」
「あ、そう言えば・・・」
全校集会で夏休み明けから新任の先生が来ることが発表された。優香はまだ、その人がどんな人物であるのか見たことがなかった。
高校にもなると小学校や中学校のように、大々的に教師に挨拶をさせるようなことはしない。というより、その新任の先生というのは、臨時の人らしく、あまり長く学校に留まることないとも言われていた。
「その人がどうかしたの?」
「さっき、他の生徒の噂を耳にしたんだけど、結構、格好いい人らしいのよ」
「格好いい人?」
「とくに女子の評判がよくて」
「そうなんだ」
新任してから、まだ少ししか経っていないというのに、生徒の間で噂になるということは、人目につくほどの美男子なのだろう。先生といえば、あまりいい印象を持つ人は少ない。思春期時期は特に敏感な年頃になる。些細なことでも、人に対する印象は変化するものだ。特に指導される側としては、どうしても受け身になってしまうので、先生に対し好印象よりも悪い印象の方が強くでてしまうから。そんな中でも、好印象をもたれる先生は珍しい。
しかし、優香にとって、あまり興味のない話題であったことだった。あの人が格好いいとか、綺麗だとか、自分には縁のないことだと思っていたから。自分が興味あることは他にあるのだから。
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