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「色々と私の自己紹介をしたいところだが、もうじき中間テストが控えている。時間が惜しい」
輝葉はそう言うと、挨拶もそこそこに黒板にチョークで中間テストの社会科の範囲を書き始める。夏休み明けというのもあって、中間までの約一ヶ月でどれだけ抜けた間を埋められるかが、ある意味、勝負の時期でああった。
「さっそくだが、関東地方周辺の産業についての授業を始める。教科書、47ページからだ。全員、教科書を開け」
輝葉は教科書を片手に持ち内容に目を通しつつ、必要な項目を分かりやすく黒板に書いていく。
(あれ?)
優香は一瞬、見間違えたかと思った。だが、それは見間違いではないとすぐに知り、驚かされた。何に驚かされたかというと、教科書に目を通したままで一度も黒板を見ないで片手で、必要な項目を書き出していることだ。しかも、白だけでなく赤、黄、青のチョークを全て片手の指と指の間に持ってだ。四色のチョークを手元を見ないで使い分けている。
名前の通り、なんて“器用”な人だと誰もが感心してしまう。よほど、手先が器用なければチョークを四本同時に持ち扱うことなどできない。おまけに、
「そこ寝るなよ」
授業と同時並行で机に俯せになって寝ようとしている生徒への制裁も忘れていない。チョークを一本投げつけ、生徒の目を物理的に覚まさせる。狙ったのかチョークは綺麗に飛び生徒の旋毛に当たり、
「いてー!」
生徒は旋毛を手で押さえて顔を上げた。
「そこ、目覚ましに、47ページの第二節、都市部におけるドーナッツ化現象について読め」
チョークを一本投げて少し余裕が出来た輝葉は指差し棒を空いた隙間に持ち、文字通りチョークで叩き起こした生徒に言う。生徒は苦々しい顔をするも輝葉に言われるがまま、教科書をもって都市部のドーナッツ化について読み始めた。
輝葉は軽そうな人にも見えるが、ところによって手厳しいところもあるらしい。いかにも、典型的な教師のようだ。
多少のアクシデントはあったものの五十分の授業は滞りなく終了した。輝葉はテキパキとチョークをしまい黒板をサッサと消してしまい、
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