桜 と 龍

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踏切を挟んだ真向かいの中古物件に、何やら小洒落た家族が越してきた。 玄関先での挨拶の声が、子供部屋まで聞こえてきた。 襖を開けて、妹とこっそり見る。 「東京から来ました。家内の地元がこっちで、その実家を継ぐために家族で移動してきたんですよ」 そう話すお父さんは、背が高くて、紺生地に白いチェックが入った都会的なスーツを着ている。 まだ、若そう。 その奥様は、とにかく色が白くて細くて、イメージ、病弱そう。 そして、かなりの美人だ。 「お子さんがいらっしゃるんですね?」 散らかった靴を見て言ったらしい。 「中学生と小学生の娘がいるんですよ」 お母さんが答えると、 「うちは、高校生の息子が一人いるんですよ。女の子がいるだけで家の中はさぞ華やかなんでしょうねぇ」 と、そのお父さんは、襖から僅かに見えた私たちを見て微笑んだ。 ……オカッパ頭のアニヲタ中学生と、同じ頭したゲーマーの小学生妹で、 このボロアパートの一室が華やぐわけないじゃない。 私が軽く会釈して襖を閉めようとした時、 「あ、ちょうど息子が、帰ってきた。 おいっ、龍神 (りゅうじん)!ちょうど良かった、お前も挨拶しないか!」 都会的なお父さんが、息子を呼び寄せた。 カシャン……。 自転車を置いて、渋々 こちらに向かってきた高校生……。 『えっ!?』 「……ばんは」 白い肌にラベンダーブラウンの髪をサラッとなびかせた、 忘れるはずもない、 『リアルヒロト様―――!』 電車の中で見た、王子だった。
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