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「龍神」
「おー……こんな朝から、どうした?」
龍神が病院へ向かうために車に乗り込む際、
勇気を出して、声をかけた。
勇気を出さなければ、話なんかできない。
龍神の絶望する顔は見たくなかったけど、後で後悔に苦しむ龍神の姿も見たくなかったから。
「あさみさん、東京から来た男のこと何て言ってると?」
「……んー。高校の時の先輩だって、
ずっとしつこかったし、何かと勘違いしてる男だって」
……本当にそう?
もし、あの男の妄想で、あんなデタラメを言っていたとしたら、警察に被害届を出すことを拒まないんじゃないの?
あさみさん、嘘をついてない?
「……輝子、何が言いたい?」
龍神は、車の屋根に肘を付いて、
納得のいかない私を、ジッ……と見ていた。
″言うな″という意味?
刺すような瞳。
それでも、
「……もし、万が一、あさみさんの赤ちゃんが、
龍神の子供じゃなかったらどうすると?」
龍神が幸せになるなら、
汚い女だと思われても構わないって思った。
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