夏の華

9/20
前へ
/406ページ
次へ
あさみが話そうとしていることは、 恐らく輝子が話していた″真実″だと思う。 言いにくそうに、渡した婚姻届の端を、白い指で握りしめて、 「一生、嘘つきでいたくないの」 輝子と同じように涙を滲ませて、 「正直者になってから、お母さんになりたい」 もう既に分かっていることを話始めた。 話を聞きながら、 時折、窓の外の桜の木を見て、 『春になったら、ここもキレイなんだろうな』 とか、 昔、大村公園で、 桜を見上げながら、 泣きそうな顔をした中学生の輝子のことを思い出したりしていた。 「龍神は、自分と血の繋がらない子どもを可愛がることできるの? ずっと、愛情持って育てられるの?」 泣きながらそう問うあさみの目には、 輝子を思う俺は、どう映ったんだろ?
/406ページ

最初のコメントを投稿しよう!

293人が本棚に入れています
本棚に追加