夏の華

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「輝子!、大変!!」 私に電話をかけてきたのは、裕海だった。 尋常じゃないほど動揺した声だった。 「………どうしたと?」 私のイヤな予感は当たる。 スマホをにぎる手が動悸のせいで、 小刻みに震えだした。 「か、金森くんが刺されて、ケガしたとって!!」 裕海の叫ぶような泣き声が、 電話の向こう、 とても遠くから、聞こえているような気がした。 「誰に? 傷は?! 危ないと?!今病院?!」 落ち着け、 落ち着けと、 もう一人の私が電話を握りしめる私に囁いている。 それでも、 心臓がドクドクして、頭がパニックになりそうだった。 「この間の暴力男みたい、 警察が病院に来てる、 輝子、すぐにおいで!!」 「うん!」 電話を切らずに、絡み付きそうな足で、 家を出たと同時に、 「輝子!」 今度は、 血相を変えたうちのお母さんに玄関で遭遇する。 「なに?今から出かけるけん! 同級生の金森くんが………」 「刺されたとって!」 「え?」 お母さんがもう知ってる。 それで、こんな動揺した顔をしているの? 面識あったかな? そんなお母さんを押し退けるようにして先を急ぐ私に、 「だから今から運ばれた病院に………」 「危篤らしかよ」 「………え?」 神様は、 また、 イジワルをした。 「そこの、龍神くん、 お腹刺されて、危篤らしかよ」
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