夏の華

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神様が残酷だと思うのは、 私にいくつもの別れ道を用意しているからだ。 そばにいられなくてもいい、 同じ地域に住んでなくてもいい、 ただ、同じ時間を生きていたいのにーーー お母さんの運転する車で、二人が処置を受けた病院に向かうと、 「輝子!」 救急病棟に、裕海と、裕海の彼氏の篤くんと、 車椅子の龍神のお父さんがいた。 「輝子、金森くんは肩を少し切っただけで、今、そこの処置室で休んどるよ」 裕海は、龍神のお父さんに気を遣ってか、小さな声で、 「元彼の方は、 出血多かったらしくて、 ヤバいんだって」 心臓が破裂しそうなことを教えてきた。 「………手術は成功したらしかとけど、 今、誰とも会わせられないみたいで」 龍神のお父さんが見つめる部屋に、 ″面会謝絶″のプレートがかけられて、 さっきから医師や看護師が何度も慌ただしく出入りしている。 「今夜が山だって」 信じられない現実に、 ″落ち着け″と、言ってくれるもう一人の私は現れてくれなくて、 「うちら………金森くんの方に行ってるね」 金森くんの軽症に、心底喜べる余裕のない私は、 「摘鳴さんのところまで 巻き込んでスミマセン、恐らく警察がこちらにも来ますので………」 苦しそうにしながらも、強さを見せるおじさんと、お母さんの側からも離れて、 龍神のいる部屋の壁に、ペタッと背中を張り付けていた。 ……立っているのがやっとだった。
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