夏の華

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「輝子は今年はのど自慢大会でらんと?」 篤くんが綿菓子をマイクのように見立てて、 歌う真似をする。 私は、そんなに拳をきかせてはいない。 「でらんよ」 「なんで?賞金貰えるとばい」 「だってねぇ!輝子はプロやもん! 出る資格なかさ」 「あー、そっかぁ」 そう、私は 裕海が言うように、 今年、 アニメの主題歌で、 とうとう歌手デビューを果たした。 「本当に申し訳ないことをした」 前任マネージャーの強制的な枕営業を 、事務所の社長たちが、 頭を下げて謝ってくれたのだ。 それからは、 嘘のようにオーディションに受かり続けて、 4月から再び東京での生活を始めたのだった。 「また、遠距離恋愛やね」 金森くんが、心配そうに 私を見つめてそう言うから、 「もう失敗しない」 ちょっと強がって笑って見せた。 「ならいいけど。 また泣いて戻ってきて、彼氏とのいざこざに俺を巻き込まんでくれよ!」 「うん、ごめん。 一年前は、本当にご迷惑おかけしました」 金森くんがいう″彼氏″ とは、 勿論、 「あー!!龍神さん、やっと来たー!」 大森龍神、 このひとだ。
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