夏の華

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「ごめん、こんな祭りの日なのに、店、客引かなくてさ」 美容学校を卒業して、昔からお世話になっていた店に就職した龍神を、 篤くんはあまり良く知らないのに、何故か慕っている。 「龍とアツシなんで、ドラゴンアシュラって名前で一緒に歌手デビューしましょうよー」 ただ、 ″龍″と名前に惹かれているだけなのかもしれないけれど。 「だっせー、それに俺、歌下手やし」 「えー、龍神さんもウマイって輝子聞いたっすよー」 「輝子は悪くは言わないからな、で、篤は歌歌えるのかよ?」 「俺は、音痴っすよ」 「じゃダメじゃん!」 アハハと笑う龍神に金森くんが話しかける。 「龍神さん、お久しぶりですね。 傷はもう、いいんすか?」 人混みに流されるように、花火が見える場所へ移動。 「うん。痛みや後遺症はないけど、傷は結構残ってる」 歩きながら、龍神がちらりと、シャツを捲りあげて、一年前の傷を皆に御披露目した。 「えー、よく見えないー もっと腹筋見せてぇ、龍神さーん」 と、残念がっていたのは、篤くんだ。 「俺の体と傷は輝子にしか見せないんだよ」 「はーい、ごちそうさまー! 邪魔者は消えまーす !」 裕海や金森君たちと離れて、三年前、一緒に花火を観た場所を二人で陣とる。 「ここが一番キレイに見えるのに、あいつら勿体ないことするよな」 「うん」 「また、二人で花火を観られるなんて、 あの時は思わんかった」 一年前、病室で起きた奇跡。 もう、 二度と会えないと思った龍神が息を吹き返し、話ができるようになってから、 いろんな人の優しさを知ることができた。
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