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駅から、寂れた商店街を抜けて、坂を降りた所にある自宅。
踏切のカンカンという音と、
列車通過時の、ゴォォ―――という音が煩くて、私はヘッドフォンをしてアニソンを聴く毎日を過ごしていた。
「輝子、遅かったね。ベランダの洗濯物取り込んどって!」
ヒロト様グッズと、列車のリアルヒロト様でお腹一杯になっている私を、お母さんが現実に引き戻す。
「……はぁい」
家事の手伝いをしないと、お小遣いを貰えない。
「ちょっ……?お母さん!! 私の下着、ベランダに干さないでって言ったとに!」
お父さんのパンツや靴下を使って隠して干してあったけれど、なんと、ブラやショーツまでも外干しだった。
「あー……ごめん。朝急いどったから」
「もぉ。ここ列車から丸見えだって言っとるとに」
「そうだよ。気をつけてよ! この辺物騒かとやけん」
リビングでゲームをしている小学生の妹が口を挟む。
「クヤマ団地で空き巣が入ったって噂やぞー」
土日休み、ずっとゴロゴロしてるお父さん。
それなら中に干し直してくれたらよかとに!
「下着泥棒は、穿いてる女がどんな顔してるかとか関係ないからの、気を付けとかんばぞ」
我が娘に対して失礼な発言をする。
……わかってる。
親が認めるほど、私は、どっちかというと、冴えない方の部類に入る女の子だ。
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