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――この男も、レジデンス茜台に相応しい住人だぜ。
「あのう……どうかされました?」
突然声をかけられ、正義は振り返る。
502号室の嘉村羽子だった。正義のどたどたという大きな足音を聞いて飛び出してきたのだろう。同い年の池上航大と同棲しているが、同棲するぐらいならさっさと結婚すればいいのにと、正義は二人の態度が歯がゆい。
「あ、いや、ちょっと借りていたものを返しに……」
とっさにそんな言い訳をしてしまった。
2階の住人が、わざわざ5階まで上がってくる理由など、あまりない。
近所づきあいというには、やや距離がある。
「あ……、そうなんですか……」
越してきたばかりの木玉倉と、2階の田仲の間にどんな接点があるのだろうと不審に感じているのがありありとわかった。
「でも、そこの人、なにをしている人なんでしょう。いえ、べつに、なんだか昼でも夜中でも物音がするものですから……」
無職である嘉村は家にいることが多かったから、木玉倉がどこか普通の人ではないと感じているのだろう。もっとも、外見からしてそう思っても不思議ではないのだが。
「それは……」
答えにくい質問だった。
と、そのとき、505号室のドアが弾けるように開いた。
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