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「ええっと……木玉倉狂介(きたまくら きょうすけ)さん……」
賃貸マンション「レジデンス茜台」の管理人で101号室に住む種田イネは、老眼鏡をかけた目を細めて賃貸契約書をじっと読む。
「お仕事は……天才科学者……?」
そして書類から顔を上げると、目の前の50代男をぼやけた眼光で見返した。
身長180センチぐらいの、大柄ではあるが異様に痩せた体に薄汚れた白衣をはおり、伸び放題の白髪に、いまどき牛乳びんの底のようなメガネをかけていた。
「いかにも」
絵に描いたようなマッドサイエンティストぶりだった。
こんな怪しげな男を住民にしてよいのだろうかと種田イネはやや心配になったが、書類に不備はなく、外見と、かもしだされる異様な雰囲気だけで入居を拒否する理由はならなかった。
「まぁ……わかりました。ではこれ、鍵です」
ペットは禁止、駐車場は今は空きがない、部屋の勝手な改装はできないなど、契約条件の説明は終わっていたので、種田イネは鍵を手渡した。
骨ばった手で受け取った木玉倉は、はいはい、と気持ちの悪い笑みを浮かべてうなずく。
505号室はマンションの最上階だ。そして角部屋。エレベーターはないが、眺めは良いしで、まずまずの物件だった。
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