泳げない私は独りで沈む

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物心ついた頃から、私は溺(おぼ)れていた。 ここは水の中。人びとは、オーロラみたいに綺麗(きれい)な尾びれを波に翻(ひるがえ)して、器用にこの世界を泳いで行く。 それに引きかえ、私は息をすることも叶わず、無様に藻掻(もが)くばかり。燦(きら)めく水面には届かない。 「みんなはどうしてそんなに自由に振る舞えるの?」 問うても誰も答えてはくれない。「できて当たり前のことだろう?何をおかしなことを言ってるんだ。」そんな表情で悠々(ゆうゆう)と私の横を通り過ぎて行く。 みんなズルいよ。私がどれだけ頑張ってもできないことを、あなた達は普通と言う。私の苦しみも分からずに。 私は惨(みじ)めだ。みんなの背中を眺(なが)めることしかできない。みんなと一緒に遊びたいのに、泳げないから仲間に入れない。 「いいな。私もあんな風に誰かと笑い合いたいな。分かり合いたいな。」 呟(つぶや)いた言葉は誰に届くこともなく、泡に捕(と)らわれ攫(さら)われた。
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