忘れたい記憶

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意外と二人の思い出って形に残っていないもんなんだな………。 俺との思い出の詰まったちなつの携帯電話は事故で壊れてしまっているし、肝心の婚約指輪はどこにいったのか分からない。 ………ちなつが自ら外して捨てたのかもしれないな。 胸の奥がチクリと痛むけど、俺は必死にちなつとの思い出を取り戻そうとしていた。 それでも───………。 ちなつの両親の援護もあったのに、ちなつは俺のことを思い出すどころか、次第に毛嫌いし始めた。 「あなたと私がお付き合いして婚約したというのは分かりました。  でも………あなたは本当に私の事を好きだったのでしょうか?  何故かそこだけは信じられないんです」 堅苦しい敬語と強張った表情しか俺に見せないちなつ。 あの頃は、いつも頬を染めて俺に笑顔を向けてくれていたのに………。 「多分、私はあなたとは結婚できません。  もう、私の事は忘れて、他の女性を見つけてください。  私はあなたのことを忘れてしまっているんだから………」 愕然としながらちなつの言葉を聞いていた。 これは神様が俺に与えた罰なんだ。 身勝手で軽い気持ちの浮気の代償は、そこはかとなく重いものだった。 ********** 毎日仕事が終わると病室まで来てくれる拓実に罪悪感が沸かない訳じゃない。 記憶がないなんて、嘘。 むしろ記憶を失いたかった。 あんな場面に出くわしたこと………ううん、拓実と出逢ったこと自体を忘れてしまいたかった。 他に好きな人ができた拓実を引き留めておきたくなくて、もう私の事は忘れてほしくて、そう言ったのに───。 「だったら初めからやり直そう。  2回目の出会いから………始めよう?  ちなつが俺の事を思い出さなくてもいいから、ちなつが今から俺の事を好きになってくれるように頑張るから………」 真摯な眼差しでそう告げられ、騙しているという私の良心が痛む。 拓実のその言葉は嬉しかったのに………。 「………無理、です」 私は頑なに拓実を拒んだ。 その時、物凄い勢いで母が病室に飛びこんできた。 「あったのよ!!」 驚いている私と拓実をよそに、母は私の元に駆け寄ってきた。 「こんなところにあったのよ。  やっぱりちなつは大事にしまっておいたのね………」 差し出されたハンカチを見てギョッとした。 あれは────あの中には───
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