ブラックホールの暴走

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ドクドクと心臓が激しく波打ち、息が苦しくなってくる。手足が氷のように冷たくなって、喉は何かを求めるようにカラカラ。逃げ場を求めて部屋から部屋へうろうろするうち、由香の足はキッチンで止まった。四十分後、お菓子をしっかり胃袋に収め終わった由香が、放心状態でキッチンテーブルの椅子に座っていた。 もう何も考えたくない。食べたもののカロリーなんて想像するのも怖い。隣の居間の明かりだけでぼんやり照らされた夜のキッチンで椅子から動くことができずにいると、水を飲みにきた母が気づいて声をかけた。 「由香?そんな暗い所で何しとるん?」 由香は夜にコソコソ間食していたのが恥ずかしくて、「うん、ちょっと……」としか答えることができなかった。テーブルの上に散らばったお菓子の袋が、その場で何が起こったのかを語っている。母はそれ以上何も聞かず、ただ「早く寝んさいよ」とだけ言って立ち去った。 その夜、食べてしまった後悔に苛まれて由香は寝るどころじゃなかった。「食べ過ぎちゃったし明日の朝は何もいらない」と言い聞かせてやっと眠りの世界に落ちたかと思ったら、いつも通り朝の五時には目が覚める。 ――お腹が空いた…… 寝る前にお菓子で満たしたはずの胃は、またしても空っぽになっていた。 何で? どうして?! 絶対に今までより多く食べてるのに! それはまさにブラックホール。 何でもかんでも、跡形もなく吸い込んでしまう無限の穴。どんなに吸い込んでも満足しない、異空間。 心配していた通りだった。 一生眠ったままでいてほしかった。 目覚めたブラックホールは日に日に吸い込む力を増していく。由香がどんなに足掻いても、それが再び眠りについてくれることはなかった。 間食のお菓子は一袋、また一袋と増えていき、やがて苦しくなるまで食べないと止められなくなっていった。「これで最後」と誓いながらお菓子に手を伸ばすことを、一日に何度も繰り返した。そして誓いを破ってお菓子にまた手を伸ばしては、自分を責めた。 何で私ってこんなに意志が弱くなっちゃったんだろ? これまで命を削って守ってきたものが、あっという間に消え去っていく。文字通り死に物狂いで培ってきた全てが、無になっていく。
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