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“回復のための過食”となれば、体重が健康的なレベルまで回復した時点で過食が止まるという。“過食症”となれば、今の地獄がずっと続く。食べても食べても満足できず、食べた分だけ体重は増えて、その後どうなるかなんて想像もできない。アメリカの最初のホストの女性みたいに胴回りが一メートル半になっても、飢えたまま食べ続けてしまうんだろうか?
どっちがいいかなんて考えるまでもない。得た情報を頼りに、とにかくどんなにお菓子を過食してしまっても食事時間には栄養のある食べ物を口に運ぶようにした。たとえどんなに心が拒絶しようとしても。そうすれば過食症になるのを避けることができるというネットの情報に賭けることに決めた。あるサイトに書いてある言葉を、由香は頭で何度も繰り返す。
栄養で体が満たされない限り、過食は止まってくれない。
ちゃんと身になる食事をしないでお菓子ばかりでカロリーを摂っていると、過食症になる。
だから食べる。
そうすれば、過食はきっと治まる。
怖くなって食べ物から逃げ出しそうになる度にそう繰り返した。
頭にこびり付くほど繰り返してもお菓子以外の食事量は大して増やすことができず、口にできる食べ物も限られたまま、どんどん巨大化していくブラックホールとともに由香は二週間を過ごした。
食事時間に食べ物と葛藤する度、「何のために入院したの?」と自分を罵った。過食となると高カロリーのお菓子を際限なく吸い込むくせに、食事の時は肉一切れすら怖くて食べられないという矛盾。それは当の本人も頭を捻るほど理解不能な現象だった。
嫌だ嫌だ!
過食症になんてなりたくない!
過食に苦しむ二週間、過食を止めたい一心でネットで見つけた「過食を止める方法」を手当たり次第試した。
「脂質を避けると過食が悪化する」という記事を見つけると、無塩ナッツや牛乳、チーズを少しずつ口にするようにした。特に脂質に対する恐怖感が強くて、肉類は未だに食べられない。もしかするとそれが過食の原因かもしれない。ナッツやチーズも口にするのは怖いけれど、肉類よりは食べることができた。
なるほど確かに、ナッツやチーズを食べるとハイエナのような空腹感は一旦落ち着く。けれど食べられる量には精神的限界があって、ベビーチーズなら二個程度が精一杯。やがて空腹感が戻ってくると、精神的にもうチーズは食べられないから別の手を打つしかなかった。
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