ブラックホールの暴走

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ブラックホールが目覚めてからというもの、どこへ行くにも心配が付いて回るようになった。いつどこで過食衝動に襲われるか予測不能なのだ。行きのフライトでも、由香が一番に心配したのはそこだった。十二時間以上かかるフライトで、何も間食せずに過ごせる自信はない。念のためにソイジョイやナッツを機内用のバッグに忍ばせた。 最初の機内食は予想通り半分も食べることができなかった。後でお腹が空いて間食すると分かりきっていても、鶏肉やバターで炙った魚を口にすることはどうしてもできない。この不思議なこだわりは由香自身にも一生理解できそうにない。結局、忍ばせておいたソイジョイを食べる羽目になった。 貴重な間食の一つ失うと、寝られるだけ寝る作戦に出た。これは当然失敗に終わり、今度は内容が全然頭に入ってこない映画をひたすら観て、祈るようにフライトの残り時間をカウントダウンすることとなった。多少肉が付いてきたとはいえ、まだまだ骨が出っ張っている体のあちこちが座りっぱなしの状態に悲鳴を上げ始める。由香は備品のクッションをお尻の下と背中に挟み、何度も体の位置を変えながら痛みに耐えた。 二回目の機内食も、空腹で唾液が滴り落ちるほどなのに半分も食べることができなかった。苦肉の策で無料ドリンクのワインを赤・白両方頼むと、ちびちび飲んでお腹を持たせる作戦に出た。これが上手くいって、なんとか到着まで持たせることができた。 のっけからジャブを食らった由香はフラフラとイギリスのヒースロー空港を歩き、滞在先の都市行きのバスが出るバスターミナルへ向かった。やり過ごす売店に目が行きそうになるたび、スーツケースをギュッと握り締めてバスターミナルの方向を示す看板に視線を戻す。バスターミナルに到着する頃、由香は今にも倒れそうなほど疲れていた。 バスで揺られること二時間、やっと大学がある都市に着いた。もう夜遅く、バスターミナルは真っ暗。知り合いのイギリス人、ハンナに迎えに来てもらわなかったら、きっと今すぐ帰国したくなるほど心細かっただろう。由香が契約している学生寮に入れるのは明日から。それまではわざわざ夜に車で迎えに来てくれたハンナの寮で過ごしていいと言われている。ハンナと知り合いじゃなければ路頭に迷うところだ。
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