277人が本棚に入れています
本棚に追加
定時を少し回った頃、仕事が終わったので部所を後にする。
(佐倉さんは、終わったかな?)
スマホを見たが、まだ連絡は入っていない。
(どこで会うんだろ?会社の近く?それとも佐倉さんが外出した先?)
場所まで言われてなかったから、どこで会うことになるのか分からない。
更衣室で帰る用意を済まして廊下を歩いていると、向かいから、グレーのスーツを着た長い黒髪の社員が、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。
(立花さん……)
それは、社長秘書の立花 葵(たちばな あおい)。
すらりとした長身に、今時全く染めていない艶やかなストレートの黒髪。
大きくて切れ長な瞳は、静かな美しさを秘めている。
不意に、彼女の黒い瞳が私を捉えた。
「お、お疲れ様です」
同性でも、ドキリとするような綺麗な視線に射ぬかれて、慌てて頭を下げる。
「……」
立花さんは私の挨拶に答えることなく、ただ真っ直ぐ、こちらに向かって歩いて来る。
最初のコメントを投稿しよう!