3piece 交差する想い

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「綾瀬さん」 低く甘い声が、うつ向いた私の上から降ってくる。 「……は、はい」 答える声が、上擦った。 フロア中の視線が、ここに集中してるのが分かる。 次の言葉をドキドキしながら待っていると、社長が言った。 「落ちていましたよ」 「……え?」 彼の言葉に顔を上げる。 すると、目の前に、バーに忘れてきた私の社員証が揺れていた。 「『社内の廊下に』落ちていました」 (……廊下に?そんなはずない) 一瞬そう思ったけど、それが、あえての嘘なんだって気づく。 (……そりゃあ、そうだよね。昨日、一緒にいたバーに忘れてたなんて言えないよね) さっき、密かに抱いた「二人の付き合いを公言する」なんていう、あり得ない妄想をさっと頭の隅に追いやった。 「ありがとうございます」 ほっとしたのと、ちょっと残念な気持ちが入り交じりながら、私は、社長から社員証を受け取る。 その時。 社長の指先が、私の指先をなぞっていき、すうっと離れていった。
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