277人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
昼休み。
会社のビルを出ると、私は鞄からスマホを取り出し、社長の番号にかけた。
こうすれば、私の番号が分かる。
もし、彼から連絡を取りたいって思ってくれれば、これからは、この番号にかけてくれるはず。
そんな先の期待まで膨らませながら、スマホ越しに鳴る呼び出し音を聞いていると、程なく電話が繋がった。
「はい、東条です」
聞き心地のいい彼の声が、耳に響いてくる。
「あ、あの……綾瀬ですっ。さっきは、ありがとうございました」
「はい」
「あれって、本当は、バーに忘れて行ってたんですよね?」
「ええ。ビルを出た後、店から私に電話が掛かってきました」
「すみません、お手数おかけして」
「いいえ。それよりも、あのバーは、気に入りましたか?」
不意に、そう聞かれて、昨夜の彼との時間を思い浮かべる。
熱帯魚の泳ぐアクアリウム。
宝石を散りばめたような夜景。
美味しいカクテル。
でも、それよりも……。
最初のコメントを投稿しよう!