ローレライ

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カフェで、良、伊藤、純が集まっていた。 カノウが額に汗を流し、ゼエゼエ荒い息をしながら、譜面を抱えて走って来た。 「持って来たよ」 「ダンケー」 伊藤が素早く、楽譜を受けとる。 「ストーリーは何?」 「ローレライを元にした、ウリエルオリジナル作品」 カノウがコップの水を一気に飲んで答えた。 「人魚伝説か」 伊藤が譜面を読み出す。 「村の美しい乙女が貴族の若者に恋をして騙されて、湖に飛び込み自殺して、人魚になって船を沈める話し」 カノウが説明した。 「救われ無い話し」 純がソーダーをじゅるじゃると音を立てて飲んでいる。 「本来、童話とか子供への教訓だから、残酷だったりするんだよ。ストーリーは変えられないけど、演出でなんとかしよう。キャストは主役村の乙女、ミッシェル。悪い貴族純。王子、俺、伊藤」 伊藤は眼鏡を上にあげた。 「ちょっと、待って。伊藤は王子様って感じじゃないでしょ。指揮がいなくなるじゃん。王子は金髪じゃないと」 「大丈夫、金髪のカツラを付けて指揮をするから」 「指揮者で、王子はいないよ」 純は呆れた。 「オーケストラと合唱も必要だ」 良が相変わらず、真面目に言う。 「それが問題だ。俺にいい考えがある」 伊藤が人差し指を一本立てると、白手袋が頬に当たった。 「ロシア人のカノウ。お前に決闘を申し込む。うけたまえ」 フィリップがテーブルの前に立ちはだかる。 「決闘だってさ。いつの時代だ?」 純が思いっきり嫌な顔をしてボヤく。 「こころ当たりがないけど」 良がフィリップを見上げる。 「アントワーヌだ」 「僕は男に興味は無い。アントワーヌも僕の事なんか無関心だ」 「お前の存在が目障りだ。アントワーヌの前から姿を消せ」 「なんか、めちゃくちゃな理屈」 純が伊藤にコソコソと耳打ちする。 「ミッシェルが勝ったらどうするのさ?」 「僕が負ける訳がないが、一つだけ申し出を聞いてやろう」 「なら、うちの王子役を演じてくれ。ミッシェル勝てよ」 伊藤が良の背中をドンと叩いた。 「勝手に決めるなよ」 「王子役はこれで決まりと」 伊藤は楽譜にキャストの名前を書き入れた。
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