0人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
カフェで、良、伊藤、純が集まっていた。
カノウが額に汗を流し、ゼエゼエ荒い息をしながら、譜面を抱えて走って来た。
「持って来たよ」
「ダンケー」
伊藤が素早く、楽譜を受けとる。
「ストーリーは何?」
「ローレライを元にした、ウリエルオリジナル作品」
カノウがコップの水を一気に飲んで答えた。
「人魚伝説か」
伊藤が譜面を読み出す。
「村の美しい乙女が貴族の若者に恋をして騙されて、湖に飛び込み自殺して、人魚になって船を沈める話し」
カノウが説明した。
「救われ無い話し」
純がソーダーをじゅるじゃると音を立てて飲んでいる。
「本来、童話とか子供への教訓だから、残酷だったりするんだよ。ストーリーは変えられないけど、演出でなんとかしよう。キャストは主役村の乙女、ミッシェル。悪い貴族純。王子、俺、伊藤」
伊藤は眼鏡を上にあげた。
「ちょっと、待って。伊藤は王子様って感じじゃないでしょ。指揮がいなくなるじゃん。王子は金髪じゃないと」
「大丈夫、金髪のカツラを付けて指揮をするから」
「指揮者で、王子はいないよ」
純は呆れた。
「オーケストラと合唱も必要だ」
良が相変わらず、真面目に言う。
「それが問題だ。俺にいい考えがある」
伊藤が人差し指を一本立てると、白手袋が頬に当たった。
「ロシア人のカノウ。お前に決闘を申し込む。うけたまえ」
フィリップがテーブルの前に立ちはだかる。
「決闘だってさ。いつの時代だ?」
純が思いっきり嫌な顔をしてボヤく。
「こころ当たりがないけど」
良がフィリップを見上げる。
「アントワーヌだ」
「僕は男に興味は無い。アントワーヌも僕の事なんか無関心だ」
「お前の存在が目障りだ。アントワーヌの前から姿を消せ」
「なんか、めちゃくちゃな理屈」
純が伊藤にコソコソと耳打ちする。
「ミッシェルが勝ったらどうするのさ?」
「僕が負ける訳がないが、一つだけ申し出を聞いてやろう」
「なら、うちの王子役を演じてくれ。ミッシェル勝てよ」
伊藤が良の背中をドンと叩いた。
「勝手に決めるなよ」
「王子役はこれで決まりと」
伊藤は楽譜にキャストの名前を書き入れた。
最初のコメントを投稿しよう!