1人が本棚に入れています
本棚に追加
「響一。」
「何。」
「俺の名前は、お前じゃない。」
響一はそう言った。そう言ったから、俺はきっと俺がした事をされるのかと、むしろそれの何倍も何十倍も、いや、何千倍もきつい辛い、そしてきっと凄まじい快楽を俺に味わわせてくれるのだろうと、そんな様々な想像が巡り巡っていたところに訪れてこんな無垢で、こんな単純で、こんな愛しい行為をしてくるとは、夢にも願望でさえも思っていなかった。
「お前って、手繋ぐの好きだったっけ?」
「うん。」
「へえ、そうなんだ。」
「知らなかった?」
「知らなかった。」
なんだ、そんな事、そんな単純な事、そんな簡単な事、そんな愛しい事、なんでもっと最初から知らなかったんだ。
「盗聴しててわかんなかったの?」
「盗聴なんてしてないよ。」
「盗聴してたじゃん。」
「盗聴なんてしてないわ。」
「盗聴してたからこういう状況になったんじゃないの。」
「盗聴ってどうやるんだよ。」
「盗聴してたじゃん。散々。」
「盗聴なんてしてないんだって。」
「盗聴ってさ、どうやんの?」
盗聴なんて、やれるもんなら、お前が生まれた時から、お前が俺の傍にいてくれた時から、やれるもんならやってたさ。
全部全部、知りたかったんだ。全部全部、俺のものにしたかったんだ。
「機械とかいらないでしょ。」
「聞こえちゃうもんね、全部。」
「物音立てる事だって出来るんだぜ。」
「え?」
「あ?」
「あれってわざと?」
「あんな大げさな音、普通立つかよ。」
「そうだね。」
「そうだよ。」
色んな事がわかって、色んな事を伝えて、色んな事を一緒にして、そして二人は繋がっていく、そして二人でいる事が当たり前になっていく、それが一番自然で、一番幸せな事なのだろうと、俺は響一の体温を感じながら、しみじみそう思った。
最初のコメントを投稿しよう!