俺の日常

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「焦りすぎなんだよ。何だよあれ。」 「何?」 「フラれたわーとか、慰めてよーって、あんな大きい声出せたんだな。」 「焦ってないよ。ただ何となく大きい声出したかったんだよ。」 「そうか。」 「そうだよ。」 あの時俺は、俺の存在に気付かずに、ずっと壁を引っ掻いている響一を見て、そっと背中を擦ってあげたいと、そっと後ろから抱きしめたいと、そういう甘い欲求ばかりが脳内に巡っていたのに、俺のした事は、俺が響一がした事は… 「そういえばさ。」 「何。」 「あの子いいの?」 「あの子って?」 「彼女。」 「別にいいよ。」 「だってなんかお前…」 「何?」 「性欲結構あるか…」 結構乱暴な、結構無謀な、女だからって、あんな風に抱かれるのって実際はどうなんだ。好きな相手だからって、ああいうのは、果たして耐えられるものなのか。それが人を愛するという事なのか。 「やっぱ盗聴してたんじゃん。」 「だから盗聴してないんだって。」 「そうなの?」 「聞こえてきただけ、だから。」 「そうか。」 「そうだよ。」 もし俺が女だったら、もし俺が響一と双子じゃなかったら、もし俺がただのクラスメイトだったら、もし俺が別の家に生まれていたら、こんな風な事にはきっとならなかったんだろうな… 「男同士でもさ、そういうの。」 「ん?」 「だから男同士でもできなくもな…」 「出来るよ。」 「は?」 「だから出来るよって。」 もしかして響一、経験あるのか?俺の知らない響一、いったい何人いるんだよ。 「何で…」 「やられた事ある。」 「は?いつ?誰に?は?何処で?」 「言いたくない。」 「は?ふざけんな、言えよ。何だよ。知らないのは俺だけなのかよ。」 「別に。誰も知らないよ。」 「俺には教えろよ。家族だろ?」 「まだ駄目。」 「何で。」 「ちょっと思いついた事あるから。」 「は?言えよ。」 「内緒。」 「まあいいや。これからも聞けるし。」 そうだ。これからもっと、これからもっと、俺は響一を好きにできる。俺はもっと、響一に好きにさせてあげられるんだ。 「恭介。」 「何だよ。」 「お前が必要なんだ。」 「うん。」 「お前が好きなんだ。」 「うん。」 「お前が…」 「全部わかってるから。」 「うん。」 これからだ。これから始まるんだ。 二人の、二人だけの、俺達だけの、普通の、ごく普通の日常が。
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