【8】落伍 

2/23
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
年が明けて睦月。 柊山との約束の期日は迫ってくる。 最上の成果以外は不可だと言われていた。もちろんだと幸子も答えた。彼女なりに最善を尽くした。 柊山はリベラルな人物で、性差による色は一切つけなかった。 そこはありがたかったが――冗談でも枕営業のひとつもすれば成績が稼げたかもを思い、そんな自分に嫌悪感を抱いた。 時間がない! 私にはもう後がないのに! 焦ってもあがいてもどうにもならなかった。 これが最後という課題を、夜なべして仕上げた。絶対の自信があった。 提出の期日という日、あろうことか彼女は重い風邪をひいた。 「お願い、学校へ行かせて、これだけでも提出したいの!」 彼女はうなされながら、こう寝言を言っていたと、後になって小母から聞かされた。 枕が上がるようになった時、全てが終わっていた。 病み上がりの中、登校した彼女を出迎えた柊山は言いにくそうに告げた、「残念だが」 「いいんです、健康管理ができていなかった、私の甘さが原因なんです」幸子は言う。 「君の今後の為に、包み隠さず話しておこう」 柊山は言った。 「もちろん、先の課題提出に間に合わなかったことも理由のひとつになるが、それだけではないのだよ。君は良くやった、ここまでやるとは思わなかった。それは認めよう。が、それは学生の身分で我が校を卒業する者ならば、の話だ。君は残り続けることを望んだ、武君や私のような教職を志すと。違ったかな」 「違いません」 「なら――はっきり言っておこう。我が校に、君を受け入れる余地はない。当初の予定通り、一年で終了を宣告する。継続して学びたいというのであれば、それは自由にしなさい。席を用意しよう。けれど、最初に志願した道を望むというのであれば諦めなさい。これ以上はお互い時間の無駄だ」 幸子は強張った表情のまま、柊山の言葉を聞いていた。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!